小説

欲望

 最初に発言したのは、帽子を被った男だった。
「いいんですか? 本当に?」
 男は驚いたような顔をしていたが、予期していたことを悟られないように演技しているように見えた。
「もちろん、結構ですよ。我々はお客さまのご要望通りにサービスいたします」
「何でも?」
「そうです。何でもです」
 男は帽子を深く被り直すようにして下を向いたが、ニヤけた表情を隠すことはできていなかった。そう、男は単純な生き物だ。欲求に正直で、それを隠すことができない。
「では、ご案内まで少々お待ち下さい。こちらにお掛けください」
「ありがとう」
 男はポケットに手を入れ、小銭を鳴らしながら、ソファーに掛けた。